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■論文・コラム01


 自治体の施設活用に効果を上げたFM(ファシリティーマネジメント)導入の事例
 大武 通伯


1.公共建築がFMを必要とする背景

 公共建築を取り巻く環境は、厳しい財政状況からのコスト縮減をはじめとして、環境保全、安全性の確保、バリアフリー等、多種多様な課題に直面している。また、2006年をピークとした少子高齢化の進展が公共建築に与えるインパクトも大きい。
 公共建築の実態としては、高度経済成長期に整備されたものが、建設後30年ほど経過し劣化が著しくなる時期を迎えようとしている。
これらの劣化した施設をこのまま放置すれば改築工事および大規模な改修工事が短期間に集中し、厳しい財政状況の中で大きな財政負担となることが予想される。
また、環境面からも建設廃棄物の発生量を抑制することが必要とされており、既存施設を取壊して新設する「スクラップ・アンド・ビルド」から、「既存施設を有効利用」する施策に方向転換していくことが社会的な要請となっている。
 これまでは、行政需要の増大に伴う施設の新築と老朽化に伴う建替えを重要な柱として、施設の整備が進められてきたが、今後は、行政目的の多様化に応えて施設の長寿命化を図り、転用や集約化といった施設の有効活用の手法が求められるようになっている。
すなわち建築の長寿命化と有効利用の施策は、建築のFMを計画・実施することに通ずるものである。このFMを計画する視点として、公共建築の運用でもFMといわれる経営手法の導入を図り、民間における経営的視点に立った施設運用と同様の施策を構築することが重要になるであろう。

2.公共建築のFM計画・実施のプログラム提案

 公共建築が直面している問題には多様な背景が存在するが、基本的には良質な公共建築を適切な保全と適正なコストで維持管理し、施設を長寿命化することによって長期の有効活用を計ることである。
 このために必要なプログラムは、公共建築のFMをデサイン(計画)することであり、市民をはじめとする多様な関係者を説得できるもので、なおかつ確実に実行できるものでなければならない。
青森県の実践事例を参考にFMの計画・実行をモデル化したプログラムとして説明する
が、FM実践のプロセスの実態は、自治体によって多様である。
 青森県におけるFM導入のプロセス(概要)は、平成13年(2001年)に県行革見直しへの意見に「ファシリティマネジメント」が登場し、FM手法導入の検討が始まった。
その後、FM導入調査研究の段階から、いくつかのプログラムを経緯して、施設情報システム稼動や「県有施設利活用方針」の制定といったFM手法の推進までに5年が経過している。全庁へのFM手法導入のためにFM専門組織が設置されたのが平成19年(2007年)であり、この年にFMが県の正規の事務事業となった。
 この青森県のFM導入・推進の実践は、2008年のJFMA賞において最優秀賞を受賞することになった。



①アプローチ
 公共建築の多くは行政改革の流れの中で施設の営繕事業や保全に何らかの変化が起こり、庁内の職員の中で問題意識を強く持った当事者がいる。この当事者は組織の長であったり一般の職員であったりするが、この当事者からの問題提起をキッカケに組織的取組みに発展させることが肝要である。この問題意識を持った当事者が、FM計画・実行の継続的なキーマンとして組織に位置づけられることが理想である。
 青森県の場合は、営繕課の職員が、平成11年度の国交大学校における講義でFMに出会ったのがキッカケとなり、その職員が現在にいたるまでキーマンとしてFM実践の中心にいることがFMで成功している原因と考えられる。また、県の改定行革大綱(平成13年)にFMが位置づけられたことが、その後のFM推進に役立っている。
 FM手法を自治体に適応するためのキッカケは、多くの事例からいくつかのパターンに分類できる。

A.トップダウン型
  いくつかの自治体では、トップ層(知事、市長、議員等)の強い指示により実施計画が進められているが、揺り戻しの危惧も指摘されている。
B.行政改革推進型
  企画室や政策推進室といった行政改革推進部門の発意から、施設の管理・運用の効率化を促す企画が立案されるケースがある。
C.財政主導型
 施設整備や改修予算の配分について、限りある予算に優先順位を付け、透明性を持った事務処理を促すためにFM手法を活用する事例がある。
D.営繕主導型
 膨大なストックの維持管理コストの増大に対して、危機意識を持つ営繕部門の技術者が、施設整備の技術を活用してFM推進の企画を立案するケースがあるが、予算措置に問題があるといわれる。

 これらの類計的なパターンの他にも、自治体それぞれが持つ特殊性を勘案したアプローチが想定されるが、どのケースでも財政や行革部門、営繕部門、施設の運営部門のコラボレーションがFMを成功に導く鍵となっている。

②組織的活動
 自治体が施設の管理運営にFM手法を採用しようとした場合、まず他自治体におけるFM手法の活用実態を知る必要がある。FMに関心を持った職員が集い、FMに関する情報収集を行うことになるが、技術系職員と事務系職員が協力することが重要である。
 FM関係のセミナーに参加したり、ホームページを参照したりするが、実態を把握するには、FM実施で先行している自治体にヒアリングする方法が効率的である。
 情報収集の結果、FMの概要を理解できたところで、自分の所属する自治体の施設の保有量等の実態を知るために管財資料等の基礎データを分析し、課題がどこにあるかを提示する必要がある。また、ここで重要なことは、次のステップに進むための予算措置を講じることであるが、実態の分析による問題点を行革部門や財務部門に提示することが必要になる。
 青森県の場合は、FM導入調査として「政策形成推進調査研究事業」(職員が部局を超え参画し柔軟かつ機動的に県重要施策案の基礎となる調査研究を行う事業)の一つとして位置づけられ、予算措置がされている。

③基本方針の策定
 庁内の多くの部局や、議会および市民(納税者)に対して説得力のある建築のFMの基本方針を提案するためには、専門の委員会や研究グループを編成し、検討のプロセスと結果を公表することが重要である。この委員会の委員構成や事務局の設置については、自治体の独自性が現れることになるが、行政改革部門の人間や外部の学識経験者を入れて効果を上げる場合もある。また、事務局には外部のFM専門のコンサルタントを採用して効果的な提案にレベルアップすることも必要であろう。しかし委員や事務局の構成の基本は関係部局であり、財政部門と営繕部門が中心的立場になることが一般的である。
 この専門委員会で検討され、提案される内容は、“公共建築のFMに関する基本方針”として「FMの理念と目的、FM推進方策」等が提示され、これ以降のFM実行の道標となるものである。
 青森県の場合は、FMチーム(全庁の11名で構成)が「FMを活用した県有施設の効果的な管理運営手法の導入に関する調査研究」に取り組み、外部(JFMA)のFM専門コンサルと協働している。ここでは、“青森県FMの理念と目的”を策定し、FMの活動像を明確に示している。(平成14年)

④情報発信・説得
 FMに関する基本方針は、庁内はもちろん社会(納税者)に対しても組織の長を通して広く情報発信し、多くの賛同を得る必要がある。これは今後のFM計画が確実に実行できるための職員確保と予算措置にとって重要な手段である。このFM計画が行政改革の一つのテーマとして取り上げられることになれば、FM推進は容易になる。
 情報発信と平行してFMの普及啓発活動として、FM講演会や職員研修会を開催し、施設管理者、NPO、民間事業者等に広くFMを理解していただく必要がある。
 また、この時点でFMの有効性を示す手段として、施設の維持管理業務の合理化(群管理システム導入等)のシミュレーションや光熱水費の節減方策提案、事務庁舎の有効スペース活用の仮想事例といった業務適正化の見える化を示すことが必要である。
 青森県の場合は、調査研究の成果をホームページで公表、市民対象の説明会開催、地元新聞への記事掲載といった積極的な情報公開を行っている。

⑤実施計画の策定
 基本方針が確定し、広く認知されたことを前提として、FMの実施計画チームが組織的に構成され、FM推進が正式に事業化される。自治体の場合、FMの言葉が一般的に馴染みにくく、保全として組織化されるケースが多い。
 青森県の場合は、まず庁内ベンチャー制度によって5名の職員が応募した「県有施設管理運営におけるFM導入推進事業」(平成15年)が採択され事業化されている。
 平成16年の実施体制は、5名の職員がFM担当として特別対策局行政経営推進室に配属され、事業に着手している。
 具体的には、維持管理業務の支援とコスト削減として「清掃業務委託等適正化の試行」と「標準仕様、積算基準の作成」によって、2年で2億6千万円の削減(削減率21%)を達成し、FM効果のアピールを行っている。平行してFMに関する講演会、研修会を6回開催し、延べ492人が参加している。
 事業の実施計画として、事務事業の「枠組」が必要になるが、自治体の独自性をもった具体的な「FM推進体系」を明示する必要がある。
 青森県のFM推進体系は、FMの4本柱として維持管理費の削減等の「コスト削減」、予防保全によるLCC抑制等の「適正運用」、戦略的な資産活用等の「資産管理」、民営化への対応等の「新たな施設経営手法」が示されている。
 事業を実施するには各種の「道具」が必要になるが、予防保全の適正な実行には、保全に関する各種の基準類やマニュアル類の整備が重要である。また、施設の有効活用を判断する道具として、施設の総合評価やLCC算出の技術が必要になる。
 青森県では、FM本格稼動に向け必要となる道具として「施設評価手法及びLCC試算手法」(平成17年)の開発を行いモデルプロジェクトに適用し、検証している。

⑥-1.データベース整備・保全情報システム構築
 保全業務を効果的に実施する場合や、施設を評価し有効活用するためには、施設に関するデータベースの整備が重要な前提条件である。データベースを活用し、建物性能、利用状況、内外の需要状況、エネルギー等の管理効率等の施設現状を把握することによって効果的な保全や施設評価が可能になる。その後は、施設建設・改修履歴のデータや施設管理情報を体系的に整備し、継続的にデータを蓄積してメンテナンスを行う必要がある。
 保全情報システムは、各種のシステムがあり、身の丈にあったものを選択することが重要である。保全情報システムは、基本情報管理、施設管理、保全計画管理、総合評価・分析機能、保全情報提供等といった機能で構成されている。独自に施設情報システムを構築する場合もあるが、既存の簡易なシステムを利用したり、ASP方式の情報システムを活用することも効率的である。いづれにしても、施設情報システム構築のための予算獲得はFM計画・実施成功のキーポイントと考えられる。
 青森県の保全情報システムは、都道府県及び政令市が共同利用するBIMMSといわれるASP方式のシステムを利用し、データベース整備や各種の管理機能を行っているため、開発費の抑制、低コストで利用可能といった効率化が図られている。

⑥-2.モデルプロジェクト適用・検証・情報公開
 保全情報システムの導入と平行して、実施計画で策定された保全関連の基準類やマニアル類をモデルプロジェクトに適用し、劣化診断等の実施に関する検証をすることが必要である。
また、モデルプロジェクトで整備されたデータベースを活用して、長中期修繕計画やLCC算出シミュレーション、施設の総合評価等を実施、保全情報システムの検証と評価、効果に関する情報公開を行うことが重要である。
 青森県の場合は、ライフサイクルコスト試算手法・施設評価手法の開発を平成17年に行っているが、検証と評価のために庁舎2件、学校2件のモデルプロジェクトに適用して、結果の情報公開を行っている。この情報公開は、その後の全庁的なFMの展開とFM組織の編成に貢献していると考えられる。

⑦全庁的取組み
 FM計画のアプローチからモデルプロジェクトの検証までに、自治体の規模や組織によって一定ではないが、3年~5年程度の組織的活動が必要である。モデルプロジェクトで検証された施設情報システムは、内外の評価を得られた後、全庁的に稼動され、施設の利活用の検討に利用される。
 FM手法の全庁的な展開に際して、実施計画チームの業務として、保有施設の総量縮小、効率的利用、長寿命化等の施設利活用方針の策定やFM専門組織(保全組織も同じ)編成の検討を行う必要がある。この組織は、FM統括部門として、各部門で任命される施設管理者(FM担当者)を支援し、保全技術情報の提供やFM教育等の実践及びFM情報(保全情報)の集中管理とFM情報提供を行う組織である。
 FM統括部門が全庁の財産全体を所管する組織として、行財政改革推進の組織として機能する場合は、総務部の財産管理専門部門の位置づけとなり、公有財産・普通財産の総括や管理・処分といった資産戦略の立案、調整、実施を行う役割を担うことになる。
 また、FM手法適用に関する全庁的調整会議の設置も望ましく、公有地や施設の有効利用(利活用や廃止・売却など)の優先順位や、予算配分の調整・協議の場となり得るものである。
施設管理者の行う具体的なFMは、日常的な業務としての保全計画・保全の実施・保全の評価と保全記録の作成であるが、各部門の施設管理者がFM統括部門の支援をうけながらこれらを担当することになる。事務職の施設管理者が適正にFM業務を実行できるための条件は、ネットワークされた優しい施設情報システム、分かりやすい保全の基準類やマニュアルの提供と繰り返し実施されるFM研修が必要であろう。
 青森県の全庁的取り組みは、平成18年に全県有施設で施設情報システムが稼動し、「青森県県有施設利活用方針」が制定された。その後「県有施設利活用調整会議」が設置されて、廃止施設等の利活用(9施設)と県有施設の利用調整が開始され、行革経費として予算編成が行われている。
 平成19年には、公有財産管理の取組みの充実強化の主旨でFM専門組織として「総務部財産管理課」(21名の構成)が設置された。また、FM手法推進の目的で「ファシリティマネジメントに関すること」を県行政組織規則に明記し、正規の事務事業として扱われることになった。土地と建物の総合的な利活用のため、庁内に「県有不動産利活用推進会議」が設置され、資産戦略や中期実施計画(5年間)の策定、庁舎等の利用調整事例が具体的に提示されて、青森県のFM推進は実践段階に入ったといえる。
 青森県におけるFM導入・推進の実践に関する詳細は、県のホームページ上で全体が情報公開されているので参照されたい。



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